クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
しかし、俺はすぐに気を取り直した。


「凛花が関わっていないことを証明するのに、長い時間は要らない」


ハッと浅い息を吐いて、眉尻を上げる。
バックミラー越しに彼を睨めつけてから、屈めていた背を起こした。


「……ふん」


純平はわずかに口角を上げ、手元のボタンを操作した。
パワーウィンドウがゆっくり上がり、俺と凛花を阻む。
俺が一歩下がると、ベンツは静かに走り出した。


凛花は大きく身を捩り、リヤガラスから俺を振り返っていた。
俺は、なにか言いたげな彼女の目をまっすぐ見つめ、車のテールランプが見えなくなるまで見送って――。


背筋を伸ばし、勢いよく身を翻した。
庁舎に戻り、上着のポケットからスマホを取り出す。
画面に指を走らせ、つい先日登録したばかりの電話番号を表示させた。
迷うことなく、発信ボタンをタップする。


「……(ウェイ)?」


コールを五回待って、俺はそう声をかけた。
電話の向こうの、香港警察の張刑事が、一瞬沈黙した。
しかしすぐに、『アア、瀬名サン?』と片言の日本語が返ってくる。


『コノ間ハ、ワザワザ香港、アリガトゴザイマスネ。コッチモ捜査……』

「我想知李富城」


俺は、気のいい惚けた日本語で会話を続けようとする彼に、広東語で挟んだ。
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