クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
電話の向こうで、張刑事が『リンカフジサキ』とたどたどしく復唱した。
恐らくメモを取っているのだろう。


「メールや電話だけでなく、ネット、SNS、別名義についてもすべてです」

「……ワカリマシタ。少シ待ッテクダサイ」


俺は彼の承諾を確認して、一言二言言葉を交わした。
彼の方が電話を切るのを待ってから、薄汚れた天井を仰いだ。


――一昨日、結婚記念日の夜。
インターポールの部下から、アーロン・リーが香港マフィアの一員だという情報を得てすぐ、捜査二課では彼と藤崎六郎、そしてケイマン諸島の口座との関係について、徹底的に洗い出しを開始した。


外務省に藤崎六郎の海外渡航記録を、日本の各通信会社に通信履歴の開示を求め、提供されたデータから浮上したもの――それが、藤崎六郎の事務所でアルバイトをしていた事務員のメールアドレスだった。
『rinka_fujisaki@XXX.jp』――。
そのアドレスを使って、香港と頻回にメールのやり取りが行われた記録が残っている。


もちろん、凛花だとは思わない。
誰かに悪用され、巻き込まれたに過ぎないはずだ。


「誰だか知らんが、命が惜しくないようだな」


俺は苦い思いで、通話を終えたスマホ固く握りしめた。
凛花の名を騙り、貶めようだなんて。
彼女を巻き込んだというだけで、俺にとっては極刑に値する。
この命に代えてでも、暴き出してやる。
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