クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
「あー、ごめんね。あゆみんが驚かせちゃった?」

「あ、あゆみん?」


眉をハの字に下げて、聞き返す私の方に歩いてくる。


「この子」


少し手前で立ち膝になり、私の足元の黒い塊を、両手でひょいと持ち上げた。
私の顔の高さに、だらんと提げられたのは……。


「あ。猫?」


毛並みのいい真っ黒な猫が、私に白いお腹を向けている。
それに抗議してか、両手足をジタバタさせて、「ふぎゃふぎゃ」と暴れる。


そう言えば、昨夜純平さんの車に乗せられた時、猫の話を聞いていた。
私はここに着いてすぐお風呂を貸してもらって、ほどなくして睡魔に襲われてしまった。
おかげで、歩さんへの挨拶もそこそこのまま。
もちろん、猫の姿は見ていなかった。
私の問いに、歩さんが「そう」と頷く。


「純平さんに、凛花ちゃんには近付けないようにって言われてたのに、朝ご飯の支度してて目を離しちゃって。二階に上がってたかあ」


暴れ続ける猫を床に戻し、ゆっくり立ち上がると。


「怪我してない? 凛花ちゃん。立てそう?」


そう訊ねながら、私に手を貸してくれた。


「は、はい。大丈夫です」


私は彼女の手に捕まり、しっかり二本足で立った。
恐る恐る足元を見下ろすと、黒猫が私を威嚇するようにシャーッと毛を逆立て、ツンと澄まして擦り抜けていく。


「気まぐれだけど、気にしないでね。猫だから」


フォローのような言葉に、私はクスッと笑う。
< 122 / 213 >

この作品をシェア

pagetop