クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
「私、猫好きです。アレルギーとかもないので、心配しないでください」


歩さんに答えながら、猫の姿を目で追った。


「私が気付かないで、尻尾でも踏んづけちゃったのかも。あゆみんさんに嫌われちゃったかな……」


廊下の隅まで行って丸くなるのを見て、しゅんと肩を下げる。


「あゆみんでいいよ。猫にさん付けって、凛花ちゃんっぽいけど」


歩さんが口元に手を遣って、クスクス笑う。
私は、微妙に首を傾げて……。


「あの……どういった経緯のネーミングなんですか?」


失礼かと思いながらも、そのセンスに興味津々で問いかける。
彼女は「あー」と明後日の方向を向いて、ポリッとこめかみを掻いた。


「教えたら、純平さん怒るかなあ……」

「え? 純平さんなんですか? 名前付けたの」


素っ頓狂な声をあげる私に、「うーん」と唸る。


「私と半々のような」

「半々?」

「あのねー……」


歩さんがなにやらもったいぶって、面白そうに目を細めた時。


「……ん?」


私は、ひくっと鼻を利かせた。
下の方から、なにか焦げ臭い臭いが漂ってくる。


「あ、いけない! 焦げてる!!」


歩さんも、私とほぼ同時に気付いていた。
あたふたと踵を返すと、階段に向かって走っていき、


「凛花ちゃん、朝ご飯食べるでしょ? 一緒に食べよう。顔洗ってきて!」


一段降りたところで私を振り返り、早口で捲し立ててから駆け降りていった。
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