クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
歩さんは、一瞬虚を衝かれたように目を瞬かせ、


「言ったなあ〜。聞き捨てならないことを」


面白そうに、瞳を動かす。
私はハンカチでゴシゴシ目元を擦ってから、わざと横柄に胸を反らしてみせた。


「だって、奎吾さんが一番だもの」

「純平さんの家で命知らずな。私だけじゃない、あゆみんも証人だからね」


歩さんも大袈裟に頬を膨らませ、軽く身を屈めてひょいと猫を抱き上げた。


「にゃーご」


猫は前足で宙を引っ掻き、さっきほどではないけど嫌がるような仕草を見せる。


「あれ。あゆみん、いつの間に下に」


私にそっぽを向いて、メゾネットの二階で寝てたのに。
私は、素っ頓狂な声をあげて目を瞠り……。


「ふふふ。あゆみんは私の味方だもん。……じゃなくて、純平さんの?」

「……はははっ」


歩さんと二人、声を漏らして笑い出した。
初めはぎこちなかった笑い声が、段々と明るく弾んでいく。


――そうだ。
私の旦那様はとても優秀な警察官僚なんだから、怖がることも不安に震えることもない。
奎吾さんがきっと、私を守ってくれる……。
そして私も、救われるのを待ってるだけじゃなく、彼のために動きたい。
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