クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
ここに来る途中、私は尾けられていることに気付いた。
スーツにネクタイ、きちんとした身なりの男性は、振り返った私と目が合っても、慌てる様子もなく悠然としていた。


きっと、刑事だ。
私を尾行しているのではなく、見張っているのだとわかった。
私が誰と接触するか、なにをするか、純平さんのマンションの周りからこの事務所にまで、私が行く先々で警察が目を光らせている。


警視庁捜査二課が担当する重大事件の重要参考人。
私が仕事に来るだけで、事務所の皆に迷惑がかかるかもしれない――。
私は始業前に、所長や弁護士先生たち、菜々子さんに、今置かれている状況を告白することにした。


「今私は、ある事件の重要参考人として、警察に見張られています」


事務所に集まってくれた皆が、『え』と一様に硬い表情を浮かべる。
私は緊張でガチガチに身体を強張らせて、できるだけ端的に昨夜から今までの経緯を説明した。


「身に覚えはないんです。でも、私は多分、警察が掴めていないなにかを知っていて、それを話せない限り、身の潔白は証明できないんだと思います」


東雲先生が、口を噤んで顎を撫でている。
< 132 / 213 >

この作品をシェア

pagetop