クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
「え? じゃあ警察は、凛花ちゃんのアルバイト先から、通信履歴どころか、勤怠管理資料も手に入れてないってこと?」


菜々子さんが、意表をつかれたように突っ込んでくる。
先生たちも、訝し気に眉根を寄せた。
私は、皆の視線を浴びて身を縮めながら、一度だけ頷いた。


その点について、奎吾さんは、『まだ捜査令状を取れる段階ではない』と言っていた。
多分、大物政治家の個人事務所だからだろう。
決定的な証拠もなく疑惑を向け、それが誤りだったら……立場が悪くなるのは警察の方だ。
すると、所長が柔和な笑みを浮かべた。


「警察はなにか別件の捜査で、瀬名さんに辿り着いたと考えるべきですね」

「別件?」


私が首を傾げると、「そう」と目を細める。


「仮にインターネット不正使用が現実にあったとして、あなたの前職場では通信記録を提出できない。証拠もなく訴えたって、警察は動きません」

「そっか。もし事務所側が訴えて捜査してるなら、勤怠管理データもとっくに入手済のはずですよね!」


菜々子さんも、ポンと手を打った。
先生方も腕組みをして、うんうんと頷いて同意している。


「瀬名さんが疑われている事件がなにかはともかく、一つだけはっきりしていることがある」


東雲先生が足を組み上げ、私にまっすぐ視線を注いだ。
< 138 / 213 >

この作品をシェア

pagetop