クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
「時間をおいて次に会った時、祖父さんにとってお前はまた梗平さんの嫁だ。そう思わせておく方が親切だ」

「っ、奎吾さん」


私が振り仰ぐと、奎吾さんは肩から手を離した。
長老に向き合い、背筋を伸ばして敬礼する。


「お祖父様、卒寿のお祝い申し上げます」

「奎吾か。お前も随分大きくなったな」

「ええ。私も三十四で警視正になりましたし」

「その上、凛花を娶ったか。これでお前の人生もキャリアも、向かうところ敵なしか」


ふぉっふぉっと引き笑いする長老に、奎吾さんがピクリと眉を動かした。


「……ありがとうございます」


静かに目を伏せ、キビキビと一歩下がる。
そして。


「拓哉。向こうで純平が捜していた」


拓哉さんに横目を流し、その方向を軽く顎先で示した。


「え。瀬名さん、今日は来ないって……」

「本家の次男が、仕事にかまけてすっぽかすわけにいかないだろう。俺が警視庁から、縄で結わえて連れてきた。『十五分だけだ』とご立腹だから、早く行ってご機嫌取れ」

「……どうせなら、最後まで責任持って縄括っておいてほしいですね」


物騒なことをさらりと言って退ける彼に、拓哉さんが唇の端をひくつかせた。
奎吾さんが、ふんと鼻で笑う。


「お前は純平の腹心の部下だ。そのくらい朝飯前だろ。だが俺は、純平も一課もお前も天敵だ」
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