クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
凛花は、ぱっちり目を開けていた。
中腰の姿勢で固まる俺に、瞬きを繰り返す。


「奎吾さん……?」


困惑に揺れる声で俺の名を口にしながら、ベッドに突いた肘を支えに上体を起こした。
大きな目で俺を捕らえたまま、自分の唇に人差し指を当てると、まるで、そこに残る余韻を手繰るようになぞり――。


「あの、今……」

「っ……すまない、凛花」


たった今俺がしたことを言い当てられないうちに、俺は勢いよく彼女に背を向けた。


「ほんの少しのつもりが、ついうとうとと……。すぐ仕事に戻る」


必死に動揺を抑え、大股でドアに歩く。


「あ、奎吾さ……」


俺を呼ぶ彼女の声を断ち切るようにドアを閉め、急ぎ足で部屋から離れた。
階段を降りながら、左手首の腕時計で時間を確認する。


午前五時。
ついうとうと、どころじゃない。
結構ガッツリ寝入ってしまった。
しかも、眠る凛花に不貞を働き、本人が目を開けてしまうとは……。


気付かれた?
なんという大失態。
激しい羞恥で茹だる顔を手で覆い、階段を降り切った時。


「ん? なんだお前。いたのか」


リビングから声がして、俺は心臓が飛び上がるほどギクッとした。


「じゅ、純平」


ソファの前で身支度していた純平が、足を竦ませる俺を訝しげに見遣る。


「あ、ああ。すまない。すぐ帰るつもりだったんだが……つい、眠ってしまって」
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