クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
家主に断りもせず泊まり込んだのを見咎められるとは、あまりにバツが悪い。
純平は「ふーん?」と鼻を鳴らすだけで、表情を変えずにネクタイを締めている。
俺は目を逸らし、玄関に向かおうとリビングを突っ切った。
すると。


「人の家をラブホ代わりにするとは、いい度胸だな」

「……はっ!?」


聞き捨てならない暴言を背に浴び、目を剥いて憤慨する。


「笑えない冗談はやめろ。本当にうたた寝しただけだ」

「それにしては、顔が赤いようだが?」

「っ……」

「……まあ、どっちでもいいが」


自分から言い出しておいて、純平は興味無さそうに話題を切り上げ、ソファから上着を持ち上げた。


「お前も警視庁に戻るんだろ。行くぞ」


腕を伸ばして袖を通しながら颯爽と歩いてきて、俺の目の前を素通りしていく。


「シャワー、浴びてくか?」


肩越しに視線を投げられ、俺はかぶりを振って彼の後に続いた。


「……いや、いい。庁舎のシャワーを使う」


純平は俺の返事を聞いて、軽く頷きながら前に向き直る。
玄関に出て靴に足を突っ込み、「あ」となにか思い出したように振り返った。


「っ……?」


顔の前にいきなり投げつけられ、俺が反射的にキャッチしたもの。
それは――。


「一宿の恩義で、お前が運転しろ。俺は到着まで十分寝る」


目の高さにベンツのキーをぶら下げて確認する俺に、純平は盛大なドヤ顔で命令した。
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