クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
このデータから、『RINKA.F』とアーロンの交流は、三年前に始まったと読み取れる。
最初はSNSだけだが、半年ほど経って、メールでの通信が増えている。
日本の商社の巨額詐欺被害が表沙汰になり、メールはピタリと途絶えたが、SNSの通信はその後もしばらく続いていた。
お互いに鍵アカウントだ。
その内容については、運営企業からの情報開示を待つ以外ないが、これだけ見ても、『RINKA.F』の関与は限りなくクロに近い――。
データを注視し、口元を手で押さえて黙考していると。


「瀬名さん」


部下の古谷(こたに)が、デスクに近付いてきた。
今春、所轄から異動してきた巡査長で、捜査二課では一番経験の浅い二十八歳。
この国際詐欺事件が本庁で初めて携わる事件となり、意気込んでいる。
俺が顔を上げると、デスクの前で両足を揃えて立ち止まり、教本の手本のような敬礼をした。


「昨夜の男、調べました。深夜なのでネットやデータベース頼りの情報ですが、幾つかわかったことがあるので、報告いたします」


やや辺りを窺うように目を走らせ、A4の用紙をデスクに滑らせてくる。
昨夜、凛花から聞いたはとこについて、調べるよう命じていた。


「ご苦労」


俺は用紙を手に取って目を落とし、ピクッと眉尻を上げた。


「時任和人、二十二歳。私立大学の工学部を卒業し、現在藤崎六郎事務所の事務職に就いています」
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