クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
会議室に集まった三十名ほどの捜査員が皆、ホワイトボードに前のめりになりどよめいた。
俺は捜査員たちに、端から順繰りに視線を向ける。


「これを見る限り、藤崎凛花がアルバイトをしていた期間にすべてが始まり、終息している。だがそれと同時期、時任和人も頻繁に事務所に出入りしている」


四年前から二年前まで、大きくぐるっと円で囲み、ペンを置いた。
そうして、時任和人の方が、より事件の核心部に存在していることを示す。
俺は手をはたく仕草をして、全捜査員に向き直った。


「時任和人は、叔父に小遣いをせびりに事務所に来ていたそうだ。そんな男が、事件発生後にトレーダーとしてHPを開設している。株や投資に費やす資金はどこから捻出したのか? これで説明がつく」


捜査員たちは、互いに顔を見合わせてコソコソと話し出した。
会議室にさざ波のように広がるざわめきを、ホワイトボードを堅く握った拳でドンと叩いて制す。
水を打ったように静まる皆の視線を浴びて、俺はスーッと息を吸った。


「この事件で、日本の一企業から二億円が騙し取られた。その金は、アーロン・リー……つまり香港マフィアと、時任和人の手に渡った。俺は、そう考える」

「瀬名管理官!」


最前列に座っていた古谷が、鋭い声を発して立ち上がった。
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