クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
***


「……ちゃん。凛花ちゃん!」

「はっ……はいっ!!」


ぼんやりしていたところに、いきなり名前を呼ばれて、私は弾かれたように立ち上がった。


「きゃっ!?」


すると、耳元で短い悲鳴のような声がして、ビクンと身を竦める。
そして。


「あ。菜々子さん……?」


大きく飛び退いた格好の菜々子さんを目に留め、パチパチと瞬きをした。


「あ。じゃないわよ。どうしたの? ボーッとして」


菜々子さんはちょっと呆れ気味に言って、肩を動かして息を吐いた。


「何度呼んでも反応ないかと思ったら、突然立ち上がるし。頭ぶつかるかと思った」

「えっ!? す、すみませんっ。お怪我は……」

「私の優れた反射神経のおかげで無傷よ」


二の腕に力瘤を作る彼女の返事を聞いて、私はホッと胸を撫で下ろす。


「どうしたのー? 心ここにあらずって感じだけど」


菜々子さんは首を傾げながら、向かい側の自分のデスクに移動していく。
そして、「あ」と眉根を寄せる。


「もしかして、例の事件のこと? 張り込んでる刑事になにかされたとか……」

「い、いえ。なんでもないです」


私は笑顔で取り繕って、椅子にストンと腰を戻した。
菜々子さんは「そーお?」と首を捻りながら、椅子を引いて腰を下ろす。
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