クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
覚束ない足取りの私を引き摺って、ジリジリと出入口の方に後退していく。


奎吾さんも刑事さんたちも、私を盾にされて、その場に縫い留められたみたいに動けない。
和人君が、嘲るような浅い息を吐く。


「ははっ。こうなると、警察もただのデクの棒だな。揃いも揃って、突っ立って見てるだけ……」

「バックが甘いわよ。彼女からその汚い手を放しなさい」


彼の引き攣れた笑い声を、凛とした声が遮った。
私がハッと息をのんだ瞬間、彼の腕があっさり解けた。
私はその場に頽れながらも、必死に頭上を振り仰ぐ。


和人君の後ろに、光山さんが立っていた。
私が和人君にされていたように、彼の首に左腕を回して締め上げている。


「ナイフを落として。さもないと撃つわよ」

「っ、んだとおっ! お前が放せ!!」


背後を取ったのが女性だとわかって奮い立ったのか、和人君がいきり立った。
光山さんの腕を解こうとして、ナイフを持った手を振り翳し――。


「凛花っ!!」


彼の手からナイフがすっぽ抜けるのを目にすると同時に、私に大きな影が覆い被さった。
ザッとなにかを裂くような音に続いて、ゴトッと鈍い音を立てて、床にナイフが転がる。


「……え?」


瞳に映ったものを疑って、大きく目を見開く私の耳に、「瀬名さんっ」と呼ぶ、切羽詰まった幾つもの声が飛び込んでくる。
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