クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
バタバタと足音が転がってきて、


「俺に構ってないで、時任を捕まえろ!!」


私の耳元で、奎吾さんが怒鳴った。


「っ、はいっ!!」


激しい足音が、出入口の方へと遠退いていく。


「くそおおっ、放せ、放せっ!!」


何人もの凄まじい怒号が渦巻く中、私はカタカタと震えながら顔を上げた。


「奎吾……さん?」


私の頭から被さる彼の背中に、恐る恐る腕を回す。
頭上で小さく呻く声と、ビクンと強張る気配。
温かくぬるりとした感触に手が触れ、全身が総毛立った。


「や、嫌、奎吾さ……!」

「騒ぐな。擦り傷だ」


言い聞かせるような押し殺した声に反して、私にかかる重みが強まっていく。


「っ、瀬名さんっ」


事務所の奥の方からまた別の声と足音が近付いてきて、私たちのすぐ横で止まった。
私から引き剥がされた奎吾さんが、ドスンと力なく尻もちをつく。


「瀬名さん、失礼します」


奈々子さんと応接室にいたもう一人の女性刑事さんが、床に片膝を突いていた。
躊躇うことなく彼のワイシャツを引き裂き、それを背中から胸に回して固く縛る。
彼女が息つく間もなくスマホを操作して、救急車を呼ぶのを見守りながら――。


「っ……」


私はその場にへたり込んでしまった。
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