クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
「…………」

「私、ずっと奎吾さんのことを梗平さんだと思ってて……」


混乱で頭がパンクしそうになりながら、必死に捲し立てる私に、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたけれど。


「……なるほど。今ので万事理解した」


呆けたように独り言ちてから、「はああーっ」と盛大な溜め息をついた。
私の手をグイと引いて立ち上がらせてくれてから、がっくりとこうべを垂れてうなだれる。


「俺はてっきり、俺が夫じゃ不満なんだろうと……」

「そんな!!」


私は悲鳴じみた声をあげ、首が千切れそうなくらい横に振った。


「奎吾さんの方こそ、私じゃダメなんだって」

「え?」

「この間だって……」


勢い余って声が大きくなったのに慌てて、両手で口を塞ぐ。
処置室のドアは開いたままで、廊下を行き交うバタバタと慌ただしい足音が響く。
奎吾さんもドア口に目を遣り、


「ここじゃあ、これ以上の話はできないな」


ひょいと肩を竦めた。
シャツのボタンを上から留めて、荷物台にかけられていた上着を手に取る。
そして。


「凛花、帰ろう。この続きは、家で」


ぎこちなく眉尻を下げ、私の背を押して促した。
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