クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
内容とは裏腹に尊大な物言いをする彼に、自嘲気味に顔を歪め……。


「……なにがさすがだ。凛花を巻き込まなきゃ、成し得なかった」


純平が、無言で缶から口を離した。


「世界一大事な女に、怖い思いをさせた。本当に、不甲斐ないの一言に尽きる」


コーヒーの缶を両手で支え面を伏せる俺に呆れて、黙っているのかと思っていたが。


「気持ちはわかる」


意外にも共感され、俺はゆっくり顔を上げた。


「純平?」

「……怪我したって? お前」


純平は足を組み上げると、顎先で示すように訊ねてきた。
俺もつられて肩越しに背中を見遣るが、


「大したことない」


はぐらかされた気分が拭えず、素っ気なく肩を竦めた。


「傷、残るのか?」

「どうかな。まあ、背中だ。特段気にならない」

「お前はそうだろうが、それを見る凛花さんはそう簡単には割り切れない」


即座に挟まれた言葉に、俺の指がピクッと動く。


「自分のせいだと思い詰めるか、それとも夫を誇りと思わせるか。どっちに転ぶかはお前次第ってとこだ」


盛大なドヤ顔にムッとするのは、長年の確執でこの身に刻まれた反応で、ほとんど条件反射だが……。
俺は、つい先ほど国枝部長から聞き知ったことを脳裏によぎらせた。
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