クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
この入浴は初夜の準備だから、少しでも粗相があってはいけないと、髪も身体も念入りに洗った結果結構な長風呂になって、その間に彼は眠ってしまっていた。
疲れてるかな、と、足音を忍ばせておっかなびっくり室内に踏み入ると。


「凛花、こっちに」


奎吾さんは、起きていた。
私の気配を察知していて、こちらを見ずにソファから立ち上がった。
寝室の前まで行って足を止め、ドアに手をかけながら私を振り返る。
――もしかして、もう……?


「はっ……はい」


予想以上に早い初夜の開始に、私の返事は裏返った。
もともとあまり表情を動かさない人だけど、素っ気ないくらい淡々としているのは、私のお風呂が長すぎて待ちくたびれてしまったのかも。


いけない、急がなきゃ。
でも、心臓は口から飛び出しそうなくらい激しく跳ね上がっているし、顔にも頭にも血が上る。
長風呂で身体が温まりすぎて、のぼせそうだ。
集中していないと、右手と右足が一緒に出て、ぎくしゃくしてしまう。
それでもなんとか彼の前まで進んだものの、


「中へ」


背中を押して入室を促され、足がもつれた。
ここで転んだら、新妻として無様すぎる……。
緊張と気負いで足が竦み、膝がガクガク震えた。
< 2 / 213 >

この作品をシェア

pagetop