クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
「ああ」


俺も相槌で応えた。


「俺たちは、今まではなにをおいても、自身のキャリアを最優先してきた」


語感からなにか感じ取ったのか、純平は唇を結んで俺に視線を返す。


「俺はお前を超えることしか考えてなかった。それこそが、凛花のためになると」


俺が目線を合わせると、ピクリと眉尻を上げた。


「だが、やめた。そのせいで、俺はこの一年凛花に寂しい思いをさせていた。本末転倒だったことを痛感した」

「……ふっ」


自分を皮肉り、顔を歪める俺を、彼は横柄に鼻で笑った。


「俺はお前よりよっぽど早く、そう気付いた。無駄に張り合ってたのは、お前だけだ」

「偉そうに。歩さんのためなら、せいぜい二、三ヵ月早いくらいだろうが」

「ご名答」


悪びれずにうそぶく彼に、俺も思わず苦笑した。
純平は頬杖をついて俺を見据え、わずかに目尻を下げる。
そして。


「まあ、次はどんな窮地でもヘマしないよう、鍛錬するのが先決だな、奎吾は」

「お前な……だから、なにを偉そうに」

「怪我が治ったら、久しぶりに祖父さんの道場行くか。なんか、お前の頭に思いっきり竹刀叩き落としたい気分だ」


傲慢にニヤリと笑われ、俺の頬の筋肉が引き攣った。


「その前に俺が、お前を真っ二つに胴切りしてやる」


堪忍袋の緒が切れて、腰を浮かせかけた時。
< 201 / 213 >

この作品をシェア

pagetop