クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
無駄にせかせかとダストボックスに歩み寄り、空になった缶を捨てると。


「そうか。凛花ちゃん、本当にやったのか……」


どこかしみじみとした呟きが耳に届き、足を引いて向き直る。
両手で頬杖をつき、なにか思い描くように宙を見上げる拓哉の方に、ツカツカと戻っていくと。


「貴様、なにを想像していやがる」


そのネクタイを掴み、ギリッと締め上げた。


「うわっ、奎吾さ……」


ギョッと目を剥く彼に、ぐいと顔を近付け……。


「ああ、そうだ。ちょうどいいから、純平との手合わせ、お前も来い」

「っ、え?」

「いたいけな凛花をからかって楽しむそのふざけた性根、俺が成敗してくれる。首を長ーくして待ってるんだな」


わざとねっとりとした口調で凄んでから、ポイとネクタイを放す。


「失礼」


凛花のボストンバッグを持ち上げ、スラックスのポケットにもう片方の手を突っ込み、くるりと踵を返した。


「ちょっ……奎吾さんっ。奎吾さんと純平さんの手合わせに俺も、って。二人とも剣道の錬士じゃないですか! 俺じゃ太刀打ちできませんって!!」


背を追ってくる大袈裟なほど悲壮な声に、思わず口角を緩ませ、


「……ふっ」


声を漏らして笑った。
しかしすぐに笑みを引っ込めると、背筋を伸ばし、執務室へと廊下を急いだ。
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