クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
Epilogue
仕事を終え、私が一人、事務室で帰り支度をしていると。


「凛花ちゃん、こっちこっち」


菜々子さんが東雲先生の部屋から戻ってきて、ひょいと顔を出して手招きした。


「? はい」


招かれるがまま、彼女の後を追って先生の部屋に入る。
テレビが点いているのは、足を踏み入れる前から、廊下に漏れ聞こえる音声でわかっていた。
先生のデスクの後ろに置かれたテレビには、夕方の報道番組が映し出されている。


『商社国際詐欺事件の続報です。二年前、日本の商社が香港との取引において、二億円を騙し取られた事件で、警視庁は今日、時任和人容疑者を起訴したと発表しました』


部屋の戸口で立ち止まる私の背を、菜々子さんが押して中に促してくれる。
私はたどたどしく足を進め、彼女と一緒にソファに腰を下ろした。
東雲先生は自分のデスクに着いて、椅子を回転させてテレビを観ている。


『警視庁の調べによると、時任容疑者はオンラインゲームの課金やインターネットショッピング代金の支払いに困り、SNSを通じて知り合った香港のマフィアグループと共謀して犯行に及びました。SNSのアカウントややり取りの際のメールアドレスには、まったく無関係の人物のものを悪用していて……』
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