クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
菜々子さんは興奮気味に、私に覆い被さる真似をした。
あの日、和人君は、自分に捜査の手が伸びるのを阻止しようとして、私のスマホに自身が開設した偽アカウントの情報を植えつけるために来たそうだ。
それをいち早く察知して、ここまで来てくれた奎吾さんを再現しているつもりのよう。


「な、菜々子さ……」

「はは」


東雲先生が、呆れ気味に乾いた笑い声を挟んだ。
菜々子さんは全然気にした様子もなく身体を起こし、両手を組み合わせてポーッと宙を見上げる。


「逞しいし頼もしいし、しかも超イケメンとか。もう、凛花ちゃん、どこでそんな最高の旦那様ゲットしたのよ?」

「え。ええと……」


奎吾さんを褒めてもらって嬉しくて照れ臭くて、私は微妙に目を泳がせた。
東雲先生が、「まあまあ」と苦笑する。


「その最高の旦那様。怪我の方はどう?」

「あ、はい」


そう問われて、私は背筋を伸ばした。


「実は今日、病院に抜鈎に行っていて……」

「勝手にお邪魔してすみません。瀬名と申しますが、妻は……」


私が説明していると、戸口の方から遠慮がちな声が聞こえた。


「え」


私たちは三人揃って、声のした方向に顔を向け……。
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