クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
とっさに胸に手を当てた私に、彼がますます怪訝そうに首を傾げる。


「凛花」

「あ、ごめんなさい」


私は慌てて一歩後退り、不審がられた自分を弁護するよう、首を横に振った。
奎吾さんは、まだ眉根を寄せていたけれど。


「ああ、そうだ」


首からネクタイを引っこ抜いてから、思い出したようにポンと手を打った。


「今日の着物、似合ってた」


わざわざ回れ右をして、身体ごと向き合ってくれる。


「え?」

「地色が優しいオレンジの」


色留袖の話題を振られるとは思わず、私は一瞬虚を衝かれた。
長老を挟んで二人になった時は、特に興味もなさそうだったのに――。


「お前らしくて、とても可愛らしかった」

「あ……ありがとうございます」


私は目尻を下げてはにかみ、お礼を言った。
奎吾さんは、「ああ」と目を細め、私の横を通り過ぎてリビングから出ていってしまった。
私はその場に立ち尽くしたまま、彼の背中を見送って……。


「……可愛らしい、か」


額に下りた前髪をくしゃりと握りしめ、口にした呟きは、自分の耳にも自嘲めいて聞こえた。
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