クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
私自身を求めたんじゃない。
そこに愛はないから、妻として扱ってはくれても、触れることはない――。


「っ……」


自分の思考に苦しくなって、私は二つに身体を折った。
結婚初夜。
あれも挙式と同じで、奎吾さんにとってはただの儀式だったんだろうか。
それなら、初めてでも怖がってはいけなかった。
私が妻の役目も果たせなかったから、奎吾さんは早々に見切りをつけたのかもしれない。
私は、『妻』の席に座らせておくだけ。
人前で貞淑な妻であれば、それでいいと……。
私は膝に額をくっつけて、頭を抱え込んだ。


幼い頃からセオリーと信じていた幸せは、私の手から摺り抜け、届かないくらい遠くに逃げていった。
好きな人の妻になれた幸せ。
大事にしてもらえる幸せ。
今手にした幸せ以上を望まずにいれば、私たちはこれからも夫婦としては上手くやっていける。
奎吾さんの隣で笑っていれば、実は仮面夫婦だなんて誰にもわからない。


でも……。
私は彼との結婚に舞い上がりすぎたせいで、夢と現実のギャップに苦しんでる。
極上じゃなくていい。
普通の幸せでいいのに、私は掴むことができないんだろうか。
――旦那様に触れてもらいたいと、願ってはいけないんだろうか。


きっと奎吾さんは知らない。
私がこんな淫らな欲求を抱えていて、満たされない想いを燻らせているなんて、夢にも思わないだろう。
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