クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
「二十三で結婚したんでしょ? 大学出て就職したばかり。一般企業に勤めてる私の友人なんか、その頃が一番忙しくて楽しそうだったよー?」

「忙しくて楽しそう……」


反芻する私に、「そう」と大きく頷く。


「仕事はまだまだ覚えることいっぱいで大変だけど、職場には慣れてきて楽しくて。気持ちに余裕が生まれて、プライベートにも意欲的な時期」

「プライベート……」

「彼氏よ、彼氏! 私もよく合コン誘われたなあ。今思えば、行っときゃよかった」


胸の前で腕組みをして、鼻息荒くふんと鼻を鳴らす。


「菜々子さんは、行かなかったんですか?」


私が質問を挟むと、喉を仰け反らせて天井を仰いだ。


「私は仕事が忙しいどころか、プライベートに割く時間はなかったから。いいなあって、指咥えて見てる暇すらなかったわよ」


お腹の底から深い溜め息をつく彼女には、「はは」と空笑いで返すしかできない。
確かに――。
菜々子さんには、同期入所の事務員がいたそうだ。
だけどその人が三ヵ月で急に辞めてしまい、代わりの事務員が決まらなくて、パラリーガルの彼女に事務の仕事が回ってきた。
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