クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
「あ、あの。けい……」


どうしてだか危険な予感に襲われ、身を竦めながら呼びかける途中で、私に降る彼の影が色濃くなっていくのに気付いた。
あ、と思った時には、彼の額に落ちる漆黒の髪が、私のまだ湿った前髪を掠めていて……。


唇に触れた少し乾いた感触に、ビクッと身体が強張った。
大きく見開いた瞳いっぱいに、彼の美しく整った精悍な顔が映り込む。


――キス。
キスなら、さっき結婚式でもした。


羽が掠めたくらいですぐに離れていったから、温もりすら伝わってこなかった。
それが私の人生初めてのキスだったけど、今はあんなちょっぴりじゃなく、しっかり重なっている。
神様の前で行った儀式とは違う、ちゃんと大人のキス――。


彼の男らしい薄い唇が、私の小さな唇の上で跳ねるように啄む。
優しい感触に、私は胸をドキドキさせた。
なのにどうしてだか、自然と目蓋が重くなり……。


「っ、んっ、んんっ……!?」


壮大な交響曲の転調を彷彿とさせる感覚の変化に、私はバチッと目を開けた。
口の中で、縦横無尽に蠢くもの……これは、奎吾さんの舌?
凶暴に獰猛に動く生き物みたいなそれに、舌の付け根から根こそぎ搦め捕られて、呼吸もままならない。
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