クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
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インターポールに出向している部下とのテレビ会議を終え、俺は目頭を強く押して息を吐いた。
パソコンの右隅、デジタル時計の表記は『22:15』。
仕事はまだまだ……いや、常に山積みだが、今夜一晩で終わるものではないし、切り上げるにはいいタイミングだ。
麻布の自宅まで、三十分もかからない。
今から急いで帰り支度をすれば、凛花が起きている時間に帰宅できる。


「…………」


俺は顎を撫で、目線を横に流して思案した。
だがすぐに目を伏せ、かぶりを振る。


結婚してもうすぐ一年になるが、今までこんなに早く帰ったことがない。
むしろ彼女を驚かせるだけだろう。


俺は、パタンとノートパソコンを閉じた。
デスクの引き出しから煙草を取り出し、胸ポケットに収めながら席を立った。
近くのデスクの部下に「十分で戻る」と告げ、捜査二課の執務室を出る。


向かった先は、フロアの端にある休憩室だ。
飲料やインスタント食品の自動販売機と、軽食が取れる程度の丸テーブルが数台置かれている。
大体どの時間に来ても、テーブルに突っ伏して寝ている刑事がいるが、今日は誰もいなかった。


俺はシャツの胸ポケットに手を遣り、奥にあるガラス張りの喫煙室の方へ歩いた。
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