クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
ドアに手をかけ、中に入ろうとすると。


「やめたんじゃなかったのか」


背後から声がして、ピクリと肩を動かした。


「凛花さん、子供の頃小児喘息を患っていたそうじゃないか。少しでも臭いが残ったらいけないって、結婚前に煙草はやめたはずじゃなかったか?」


肩越しに振り返ると、警察庁キャリア組の同期で、捜査一課の指揮を執る従兄弟の純平が、飲料の自動販売機の前に立っていた。


「……純平」

「意志が弱いな」


ゴトンという音に屈み込み、俺の顔を目がけてなにか投げつけてきた。


「!」


俺はとっさに手を翳して受け止め、


「いきなりなにを……」


文句を言いながら手に目を落とす。
ブラックコーヒーの缶だった。


「一服なら、それにしとけ」


ちらりと横目を流され、シャツの胸ポケットを見下ろして溜め息をついた。
無言で手近なテーブルの椅子を引いて、どっかりと腰を下ろす。
自分の分を購入した純平が、こちらに歩いてくる。
斜めの位置で腰かける彼の方に、俺は百円玉を二枚、テーブルに滑らせた。


「ん?」

「釣りはいらん。納めろ」

「は? 別にこのくらい構わんが」


怪訝そうに眉根を寄せる彼に構わず、硬貨を置いて手を引っ込めた。
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