クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
「お前に借りは作らない」


椅子の位置をずらし、身体の正面をテーブルから外して足を組み、缶を開ける。
純平は顔をしかめたものの、黙ってコーヒーを一口飲んだ。
無人の喫煙所を見遣り、


「やめられないほどヘビーでもなかっただろうが。相当ストレス抱えてそうだな」


ドヤ顔で、椅子の背に横柄に踏ん反り返る。


「朝峰、ここに呼ぼうか。ストレスの原因がなにか、あっさり解明してくれるだろうよ」


わかりやすい揶揄に、俺はムッと唇を結んだ。


「余計なお世話だ」

「やめたならやめたままの方がいいだろう、喫煙習慣は。……ああ、でも、依存性はドラッグ並みだからな」


上から目線の正論に耳を傾け、『ドラッグ並み』という言葉に触発された。
腕組みをして、彼に視線を戻す。


「捜査一課は年末に向けて大忙しだな。ミッドナイトのバイヤーの件、連日公判だろ」

「まあな」


純平は缶の縁を摘まんで揺らしながら、しれっと答えた。
彼が指揮しているのは、東南アジア諸国に数々の拠点を持つ、国際麻薬密売組織『ミッドナイト』による事件だ。
この春、バイヤーの一人を現行犯逮捕したのをきっかけに、末端構成員を次々と検挙してきた。
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