クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
『すみません。私、瀬名梗平さんだとばかり思っていて……』


自分が元々梗平さんの花嫁候補だったことを、凛花が知っていたとは知らなかった。
結婚相手が分家の俺で落胆したのか、俺と目を合わせず泳がせるばかりだった彼女を忘れられない――。


「……見すぎだ、奎吾」

「え?」


鬱陶しそうに顔を歪めている純平に気付き、俺は我に返った。
凛花のことを考えると、ついつい思考の深みに嵌っていく。


「……すまない」


俺がぎこちなく目を逸らすと、純平は「ふう」と息を吐いた。


「お前、ストレスなんかにやられてる場合か? うちの兄貴の嫁さん候補、強奪しておいて」

「強奪? 人聞きが悪い」


冷やかしと悪意のこもった言い様にムッとして、俺はピクリと眉を動かした。


「凛花に決定した後じゃないし、そもそも梗平さんには、結婚する気がなかったと聞いた」

「ああ、なかったろうな。兄貴は凛花さんと面識がなかったはずだし、一回りも歳下の女を上手く扱える男じゃない」


純平が、ふんと鼻を鳴らす。


「梗平さんとは、面識なかったのか」


鼓膜に刻みついた凛花の言葉を、脳裏でぐるぐると渦巻かせながら独り言ちる俺に、「ああ」と相槌を打つ。


「まあ、兄貴に嫁ぐよりは、お前で幸せだったろ。彼女」
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