クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
「ん、ふっ……ふぁ……」


今や、心臓は早鐘のように打ち鳴っている。
熱くて苦しくて、脳血管が破れそうなくらいのぼせ上がる。
初めてのキスから、初めてのディープキス。
今日一日で怒涛のように襲いかかる初めての波に、緊張や恥ずかしさを押し退け、恐怖が台頭してくる。


「や、嫌、奎吾さ、けい……」


圧しかかってくる彼の引き締まった厚い胸板に、とっさに両手を置いた。
力を入れようとすると、腕が小刻みに震える。


「はっ……」


激しいキスは、どれくらい続いたのか。
奎吾さんが短い吐息を零して唇を離した時、私の息はすっかり上がっていた。 


生理的に目尻に滲んだ涙が、こめかみに伝い落ちる。
荒い息を整えようとするのに、身体の痙攣が止まらない。
私を見下ろす奎吾さんが、くっと眉根に力を入れた。


「震えてるな」


このくらいで不甲斐ない新妻を、抑揚のない口調で咎めているのかと思った。


「ご、ごめんなさ……」

「嫌か」


謝罪を阻む短い問いに触発され、ゾクゾクと身体が戦慄く。
『違う』と答えたいのに、声帯が締めつけられたみたいに、声にならない。


「……はっ」


なにをどう解釈したのか、奎吾さんは物憂げに顔をしかめて、短く浅い息を吐いた。
忌々しそうな吐息にギクッとして、私はガチガチに強張ってしまう。
< 5 / 213 >

この作品をシェア

pagetop