クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
左手首の腕時計に目を落とし、ベッドに戻るよう促す。
凛花は時間がわからないのか、キョロキョロと辺りを見回してから、ひょいと肩を竦めた。
そして。


「……奎吾さん。お身体は大丈夫ですか?」

「え?」

「お食事とってますか? ちゃんと眠ってるのか、心配です」


憂い顔で目を伏せる。
あまり見慣れない表情から、初めて触れる大人びた雰囲気が漂ってきて、俺の鼓動がドクッと沸いた。
俺を心配してくれる凛花は、破壊力抜群に可愛いすぎる。


「……? 奎吾さん?」


俺がすぐに返事をしなかったからか、凛花はますます眉を曇らせた。


「ああ、いや。すまない」


俺は息を吐いて自分を落ち着かせ、口元から手を離した。


「俺は昔から鍛えているから、体力には自信がある。心配いらない」

「でも」

「お前の方こそ。法律事務所の仕事はキツくないか? 家事もしっかりやってくれているし、無理して身体を壊したら……」

「やっぱり、本当は納得してないですよね」


俺がなにを言うか読んでいたかのように、凛花が先回りして遮った。
不服そうに唇を尖らせるのを見て、俺は口を閉じる。


「世の中の多くの奥様がやってることです。全然大丈夫ですから」


凛花は気を取り直した様子で袖を捲り、二の腕に力瘤を作るポーズを見せた。
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