クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
しかし、華奢でか細い腕に、力瘤は浮き上がらない。
自分でも頼りないと感じたのか、「あ」とあたふたした。


「と、とにかく。家事を疎かにしたりしませんから、安心してください」


胸を張って、話題を引き取る彼女に……。
――違う。違うんだがな……。
俺は説明を挟んで弁解したい気持ちに駆られながら、結局のみ込んだ。


くどくどと口うるさい男と思われたくない。
彼女に、嫌われたくない――。


一年半前、凛花は、俺との結婚は両親が認めた決定事項と解釈していたのだろう。
見合いの席で俺を見て放心したものの、俺の求婚に応じてくれた。
本家に嫁ぐと思っていたはずの彼女が、どうやって気持ちを即座に切り替えたのか。
真意を聞くことができず、その本心はわからないが、こうして妻になってくれた彼女に、俺は感謝しかない。


愛しい凛花。
俺が必ず、幸せにする。
必ず――。
そう心に誓った時、俺は自分に最重要使命を課した。


一つ。瀬名一族の中で、不自由な思いをさせないこと。
そのために、俺はなにがなんでも実績を残し、警察界で純平を上回る評価を得なければならない。
そうすることで、凛花に金の心配をさせずに済み、一石二鳥だ。


二つ。彼女が嫌がることはしない、させない。
泣かせたり、ほんの少しでも苦痛に顔が歪むようなことは厳禁だ。
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