クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
三つ。彼女が俺に望むことは、なにに変えても叶えてやる。
なんでもするから、いつも笑顔を見せてほしい――。


とは言え、外に出て働きたいと願われた時、俺は少々拍子抜けした。
お金のためではない、自分のためだと言われ、俺は彼女の気持ちがまったくわかっていないことを痛感した。
それが引っかかり、快く同意してやれなかったせいで、凛花は俺がよく思っていないと考えているようだ。


俺の前では、疲れた顔をしない。
たとえ無理していたとしても、弱音を吐かないだろう。
この世で一番大切な妻に気を遣わせるなんて、俺はなんとも不甲斐ない。


「……無理していないなら、それでいい」


俺は歯痒い気持ちを堪えて、それだけ返した。
くるりと背を向け、ドアに手をかける。


「それじゃあ……」

「あの、奎吾さん」


『行ってきます』と言いかけたのを、やや強張った声に阻まれた。


「……来週、結婚記念日です」


凛花が、改まった口調で先を続ける。
俺はピクッと反応してから、


「ああ。なにか欲しい物があるか?」


意識してゆっくりと、肩越しに視線を返した。


「言ってくれ。俺に揃えられる物ならなんでも……」

「物は、なにも欲しくありません」

「え?」


言い回しに意図を感じて聞き返すと、凛花は困ったように微笑んだ。


「奎吾さん。お休み取れませんか」
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