クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
胸元のストールを握りしめ、意を決したといった顔つきでまっすぐ俺を見つめる。


「一日……いえ、半日。ダメなら、夕食だけでもいいです」


いつになく詰め寄ってくる彼女に、俺は戸惑って唇を結んだ。
こくりと喉を鳴らして、気を取り直すと。


「どこか行きたいところでもあるのか? それとも、食べたいものでも……」


俺の質問の途中で、凛花はかぶりを振った。


「二人でゆっくり話をして、過ごしたいだけです」

「話……?」


硬い表情で畳みかけられ、俺は条件反射でぎくりとした。
無意識に後ずさると、背中がドンと壁にぶつかった。
ハッとして、背後に目を遣る。
無様に狼狽える俺をどう思ったのか、凛花は儚げな笑みを浮かべた。


「奎吾さん、お気をつけて行ってらっしゃい」

「凛……」

「お休み、無理は言いません」


ぎくしゃくと呼びかける俺にペコリと頭を下げ、ストールの裾を翻して踵を返す。
凛花はリビングに戻ると、静かにドアを閉めた。
彼女の小さな足音が、ドアの向こうで遠退いていった。
その音が聞こえなくなっても、俺はその場に立ち尽くしたまま――。


思い詰めたような、硬い表情。
改まった口調。
グイグイと踏み込んでくる、らしくない態度。
なにをどう考えても、いい方向には解釈できない。


「話……」


嫌な胸騒ぎがして、俺は無意識に胸元に手を当てた。
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