クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
奎吾さんは私を見下ろして、無言でかぶりを振った。


「凛花。こ……」


なにか言いかけたタイミングで、寝室に機械的な電子音が響いた。
奎吾さんが、自分のスラックスのポケットに目を落とす。
私も音の出所を探して、そこに視線を動かした。


奎吾さんは床に足を下ろし、ベッドの端に腰かけた。
私が上体を浮かせて目で追う中、ポケットからスマホを取り出し、顔色も変えずにモニターに指を滑らせる。


「もしもし。瀬名だ」


電話だったようだ。
相手の声が大きくて、『管理官、休暇中に申し訳ございません』と漏れてくる。
電話口で敬礼していそうなやり取りを聞かなくても、相手が仕事の部下なのは察せた。


「ああ……」


奎吾さんは気のない相槌を返し、肩越しに私を一瞥した。
すぐに目を逸らし、ギシッとベッドを鳴らして立ち上がる。


「構わん。用件は?」


彼も声が漏れるのを気にしたのか、ドア口の方にスタスタと歩いていってしまう。
リビングに出ていく背中を見送りながら、私はしっかりと起き上がった。
ドアは薄く開いたままで、電話に応答する彼の声が、途切れ途切れに聞こえてくる。


胸が上下するほどの荒い息は整い、私は徐々に平静を取り戻していった。
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