クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
「中西先生の一番嫌いな案件。やりたくないんだって、この離婚調停」


ちらりと落とした視線の先で、中西先生がお腹の底から深い溜め息をついた。


「好きになれるか、離婚調停なんて」

「そ、そうですよね。一度は結婚した二人が争うなんて、寂しい……」


私が怯みながらも同意すると、菜々子さんは「チッチッチッ」と舌を鳴らし、顔の前で人差し指を左右に振る。


「胸が痛いとかじゃないの。互いの悪口を言って罵り合って、権利と金の奪い合い。もしくは押し付け合い。中西先生への依頼相談に同席する度に、私は結婚に夢が持てなくなるわ」


はーっと息を吐いて、ソファにドスッと腰を戻す彼女を、中西先生が斜めの角度からじろりと見遣った。


「君が結婚できないのを、僕のせいにするのはやめてくれたまえ。そもそも、依頼人の相談に同席するのはパラリーガルの仕事だろう」

「は? どういうセクハラ、パワハラ発言ですか、それ。私、まだ二十六歳ですから。結婚できないなんて決めつけないで。まだまだこれからなんですよっ」

「ああ、そうか、ごめん。ついつい、瀬名さんと比べちゃって」

「むっかーっ!! 凛花ちゃんは、今時早すぎなのよっ」


鼻の穴を広げて憤慨する菜々子さんに。鬱陶しそうに眉根を寄せて、しっしっと手を翳す。
二人の言い合いの原因に少なからず関わっているとなると、私も立ち去ることができない。
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