クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
「え、ええと……」


私は肩を縮めて、目を泳がせた。
すると、中西先生が気を取り直したように、「ごめんね」と頭を掻く。


「好きじゃなくても仕事だからやるけど、今回のは特に酷くてね」


眉尻を下げてボヤくのを聞いて、私は好奇心をくすぐられ、こくりと喉を鳴らした。


「酷い?」

「まあ、座って」


菜々子さんが私に、対面のソファを勧めてくれる。
私は一瞬躊躇したものの、二人と向かい合って腰を下ろした。


「正直、夫にも妻にも同情の余地もない。最低夫婦」


菜々子さんが足を組み上げて腕組みする隣で、中西先生もうんうんと頷く。


「結婚三年目、二人とも三十代。子供なし。奥さんは結構良家のお嬢様で、高齢の両親から早く孫の顔をとせっつかれててね」

「でも二人は、二年目から、そっちの方はレス状態」

「え……」


先生の説明に合いの手を入れる菜々子さんに、私は何故かギクッとして声を漏らした。


「ご主人はエリート商社マンで仕事が忙しく、出張も多い。レスではない、多忙なせいだと主張している」

「…………」


私が聞いていていいんだろうか?
なんだか急に居心地悪くなって、膝の上で結婚指輪を嵌めた左手を右手でギュッと握りしめる。


「でも奥さんは、ご主人の浮気が原因だと反論した」

「っ、えっ?」
< 62 / 213 >

この作品をシェア

pagetop