クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
私が思わず中西先生の方に乗り出すと、菜々子さんが足を解いてグッと身を屈めた。


「調査会社に依頼して、ご主人の浮気調査をしたそうよ。結果、出張と言って家を空けていたうちの数回は、女性と会っていたという報告だった」

「そんな……だったら、可哀想なのは奥様じゃ」

「だーかーら。同情の余地もないって言ったでしょ?」


意見を挟んだ私に、意地悪に微笑む。


「離婚を言い出したのは、ご主人の方。ダブル不倫なの」

「えっ……」

「実は奥さんの方も浮気して、なんと妊娠してしまった」


中西先生が被せた説明に、私は呆然としてしまう。


「ご主人は、奥さんに慰謝料を求めてる。でも、奥さんも黙っちゃいない。夫の浮気で心身症になったと、診断書を提出して主張し、逆に倍以上の慰謝料を要求した。その上、離婚に応じる条件として、お腹の子供の父親になれと言っている。養育費も請求する心算だ」

「結婚した時の愛はどこに行っちゃったのかしらねえ……」


最後は呆れ半分に、遠い目をして呟く菜々子さんの前で、私は絶句した。
彼女は呆然自失する私から目を逸らし、中西先生に向き直る。


「先生。どの辺を落としどころにするんですか? この二人、調停でも口汚く罵り合うに決まってますよ。どうにも心証が悪いです」
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