クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
背中で押してドアを閉め、短い息を吐いて低い天井を仰いだ。
――異様なほど、心臓がドキドキしてる。
六法全書も知らない素人が、法律の専門家を前に偉そうに意見を言ってしまった。
でもそれ以上に、依頼人ご夫婦が離婚調停に至るまでの経緯が衝撃で、身につまされるものがあったせいだ。


二人のようにレス……どころか、私と奎吾さんには夫婦の実態がない。
仕事が忙しく不在がちなのは奎吾さんも一緒だけど、彼がご主人と同じように浮気しているなんて思わない。
――いや、思いたくない。
わずかながら疑心がよぎり、心が揺れた自分を叱咤するつもりで、私は強くかぶりを振った。


だけど……。
奎吾さんは瀬名分家の長男だし、いずれは私も両親から『孫の顔を』とせっつかれるのが目に見えている。
その時、私は――。


結婚してから一度も旦那様に触れてもらえない現状を、どう振り返るだろう。
奥様のように追い詰められたら……私はどんな行動に出るだろう。


事務所に舞い込んだ他人の離婚調停が、明日は我が身のように身近に思えて、とても他人事ではない。
私は奥様みたいに他の人となんて無理だから、こんな泥沼離婚に発展する前に、なんとかしなければ。
とにかく、レスどころかゼロの状態を打破するために。
私は未だかつてないほど思い詰め、悲壮に顔を歪めた。
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