クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
彼の眉間に刻まれた皺から漂った不機嫌に、怯みそうになるのを堪えて、胸元の服を握りしめる。


奎吾さんが電話を終えて戻ってきたら、今度は怯えてないで、ちゃんと妻の務めを果たさなきゃ……。
先ほどまでとは別の意味で緊張を強めながら、彼の戻りを今か今かと待ち構える。
それほど待たずに、奎吾さんが寝室に戻ってきた。


「あの、奎吾さん」


私はベッドの上で跳ね上がって正座して、意気込んで呼びかけた。
なのに。


「悪いが、これから仕事に出る」

「え?」


淡々と声を挟まれ、意表をつかれて聞き返した。
奎吾さんは私に背を向け、大きなクローゼットを開けた。
そこから、クリーニング済のワイシャツを取り出す。


「帰りは何時になるかわからない。お前は部屋に戻って休め」

「え?」


私の視線に構わず、ラフなTシャツを裾から捲り上げて脱ぎ捨てた。


「きゃっ……」


いきなり目の前で脱がれ、私は慌てて両手で顔を覆い、視界を閉ざした。
奎吾さんは長身で、服を着ているとほっそりしているのに、幼い頃から武道で鍛え抜かれた身体は立派だ。
余計な肉はどこにもなく、筋肉が浮き出て引き締まった背中が、ヨーロッパの有名な彫刻みたいに綺麗――。


目にしたのはほんの一瞬なのに、あまりに美しくて網膜に焼きついてしまった。
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