クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
『今週末だったか』

「はい。その日、奎吾さんにお休み取ってもらうようにお願いしていて。ゆ……夕食に奎吾さんの好きなものをたくさん作って、サプライズしたくて」


私は額を手の甲で拭いながら、早口で捲し立てた。


『サプライズ? そりゃ、ご苦労なことで』

『もーっ! 純平さんっ!』


素っ気ない彼に、歩さんが憤慨した。


『健気な妻心ってものじゃないですか』

『馬鹿にしてるわけじゃない。凛花さんが作ったものなら、アイツはお茶漬けでも泣いて喜ぶだろうよ』

「は……?」


仲のいい二人のやり取りを羨ましく感じながら、私は短い声を挟んだ。
純平さんが、『そうだな』としばし黙考して……。


『カレーでも作ってやれ。昔から好きなはずだ』

「カレー……」

『それなら、幾分日持ちするだろ』

「え?」


戸惑って聞き返す私の耳に、『あ、純平さんっ』と歩さんの声が割って入った。
なにか物音がするだけで、音声が途絶えた後。


『ごめんね、凛花ちゃん。純平さん、お風呂入るって行っちゃって』


歩さんの困ったような謝罪が届いた。


「い、いえ。私の方こそ、すみません。純平さんもお忙しいのに、こんな質問を」


もしかしなくても、『本人に聞け』と思われたのだろう。
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