クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
私はガチガチに肩を力ませて、平謝りした。


『ううん。でも、カレーなんて適当すぎよね。純平さんも、すぐには思いつかないのかなあ……。また私からも聞いてみるね』


優しい彼女が眉をハの字に下げている様子が、手に取るようにわかる。
だけど、私はもう一度壁時計を見つめて……。


「あの、歩さん」


遠慮がちに、呼びかけた。


「純平さん、今日はお帰り早かったんですか?」

『え?』

「だって、まだ十時……」


ぎこちなく返す私に、歩さんが『ああ』と呟く。


『前はもっと遅かったんだけど……今はできる限り早く帰ってきてくれてるみたい』

「今は?」

『……私が、一人にならないようにしてくれてるのかな』


へへ、と恥ずかしそうに笑う声を聞いて、私はグッと言葉をのんだ。
そして。


「愛されてるんですね。……いいなあ」

『え?』

「いえ! あの、ありがとうございました」


無意識の独り言に聞き返されて、慌てて首を横に振る。


「ええと……せっかくの二人の時間、お邪魔になるので切りますね」


気を取り直して、そう告げる。


『あ、凛花ちゃ……』

「お休みなさい」


彼女がなにか言いかける途中で挨拶して、電話を切った。
ツーツーと無機質な電子音が鳴るスマホを持つ手をだらんと落とし、私はソファに深く背を沈ませて天井を仰いだ。
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