クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
二人が気を緩ませ、広東語を交わす状況を作る。
食事中が、香港警察の内情を探るチャンスだ。


俺は深い溜め息をついて、別のポケットからプライベートのスマホを取り出した。
LINEアプリを起ち上げ、三日前、羽田空港から凛花に送ったメッセージに目を落とす。
既読表示は、すぐについた。
その三十分後に返事があったが、俺が確認したのは、香港に到着してホテルにチェックインした後だ。


『わかりました。お気をつけて。お帰り待ってます』


俺が絵文字や記号を使わないからか、彼女のメッセージもあっさりと簡潔だ。
事務的な文面からその心は図れないが、返信に三十分のタイムラグがあったのが引っかかる。


妻の頼みも聞けない夫に、怒ったか?
初めての結婚記念日も仕事ですっぽかされると諦め、呆れたか?
――がっかりして、肩を落としたか?


凛花の心中を図って思考を巡らせると、見合いの席で落胆した彼女を思い出し、胸がズキッと痛む。
なにを言っても、言い訳にしかならないことは重々承知している。
その上、『帰れる時に連絡する』と言ってしまった手前、帰国できない現状で、まだ彼女に連絡できていない。


なんとか明日、香港を発ちたい。
そのために、とにかく早く仕事を終わらせる。
今はそれが最優先だ。


「…………」


俺は頬杖をつき、夜の繁華街の喧騒をぼんやりと眺めた。
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