クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
またしても、今までとは違うドキドキで心臓が騒ぐ。
奎吾さんはなにも言わず、ただ衣擦れの音だけが続く。
私は、恐る恐る顔から手を離した。


奎吾さんは、黒いスーツのスラックスに着替えていた。
糊の効いた白いワイシャツの裾を入れ、ベルトのバックルを締めたところだった。
袖のカフスボタンを留めて、クローゼットから結構適当にネクタイを引っこ抜く。
首にかけ、慣れた手つきでネクタイを結ぶと。


「お休み、凛花」


最後にちらりと私に視線をくれただけで、颯爽と出ていってしまった。
置いていかれた私は、言われた通り自室に戻るか、このまま彼のベッドで待っているか、新妻としてどちらが正解か考えた。


奎吾さんは、何時に帰ってくるかわからない。
だからと言って、私は自室でのうのうと寝ていていいのだろうか。
旦那様は仕事を優先して出ていってしまったけど、今夜は結婚初夜だ。
いい意味で、仕切り直しになったと思いたい。
怯まないように、震えないように、奎吾さんが帰ってくるまでに落ち着かないと。


私は自室に戻らず、彼のベッドでうずくまったまま、必死にリラックスしようと努めた。
だけど、朝から緊張を張り巡らせて、結婚式をやり遂げた後だ。
私の神経は、なによりも疲労感に支配され、いつの間にか眠ってしまっていて――。
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