クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
「奎吾さん、私」


震える声と共に、彼女の腕に力がこもった。
背中に押しつけられる、柔らかい感触……これはヤバい。マズい。


焦れば焦るほど、背中に全神経が集中する。
バクバクと爆走する心拍で、耳鳴りまでし出した。


「……凛花、放せ」


自分で彼女の腕を解くことも考えられないほど動揺して、身体を硬直させた。
絞り出した声は掠れ、固くなった自覚があった。
それでも彼女の耳に届いたのか、ビクッと震えた反応が直に伝わってくる。


「やっぱり……私じゃ無理ですか……」


凛花がひくっと喉を鳴らし、声を詰まらせた。


「私、あの奥様の気持ち、わかる。ご両親に孫の顔が見たいって急かされて、困るだけだったんです。ご主人とは一年もレスで、ただでさえ寂しいのに」

「……え?」


ショートしていた思考回路が刺激され、聞き返すことができた。


「ご両親に他意はなくても、追い詰められて浮気した奥様の気持ちは、ちょっぴり理解できる気がするんです」


グスッと鼻を鳴らす音を、耳で拾い――。
……なんだ?
凛花は一体、なにを喋っている?


不可解すぎて、思考回路が正常に軌道修正されていく。
俺は黙って、肩越しに彼女を見下ろした。
凛花は俺の背に額を擦りつけていて、気付かない。
< 83 / 213 >

この作品をシェア

pagetop