クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
俺はその顎をグッと掴んで、顔の向きを正面に固定させ――。


「祖父さんの卒寿祝いの時か? 子供を急かされたのは」

「え?」

「それで困って……お前は……」


拓哉に、俺の従兄弟に頼ったと言うのか……?
続きを口にするのは、俺のプライドが許さなかった。
喉の奥まで出かかった言葉を、ブルッと頭を振って飲み下す。


忌々しく顔を歪め、彼女のブラジャーの肩紐を指で拾ってパチンと弾いた。
このエロい下着も、アイツの趣味か?
――不倫。
凛花が、拓哉と……?


メラメラと燃え上がる嫉妬と憎悪の炎で、目に映るすべてのものが紅蓮に染まる。
凛花は無理矢理俺の方を向かされたまま、大きく目を見開いていた。


「け、奎吾さ……?」


黒い瞳を戸惑いで揺らしながらも、視界の真ん中に俺を捉えて逸らさない。
一瞬、一年前の結婚初夜の記憶が脳裏をよぎった。
あの時のように嫌がられても……今夜は一度手を出したら止められない。
だから、やめろ。
堪えろ……。


「お前が、こんな下着で、男を誘惑する女だとは思わなかった」


俺は全身の血管が脈打つ感覚に耐えて独り言ち、ハッと浅い息を吐いた。
凛花は瞳いっぱいに涙を湛えて、ビクッと身を竦める。


「ごめ……ごめんなさい。奎吾さ、私」

「それなら、相手が俺でも構わないだろ」

「っ……え?」
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