クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
混乱に塗れた独り言が、すんなりと胸に浸透する。
理解が繋がり脱力して、彼女から手を離した。


「……けい? 奎吾さん……?」


ふわふわと浮かされたような声。
潤んだ目が、俺を探っている。
俺は顔を手で覆い、彼女の視線から逃げた。


それじゃあ、子供とか浮気とか不倫とか……さっきの話は一体なんだったんだ?
凛花らしくないこの下着は?
拓哉のためじゃなかったなら、俺はなにに嫉妬したんだ?
激情して、凛花を屠りかねないほど暴いた。
こんなの、ただの猛獣だ。


「っ……」


激しい罪悪感と自己嫌悪に駆られ、声をのみ込む。


「奎吾さ……?」


怖々と手を伸ばしてくる彼女から、勢いよく顔を背けた。
意図せずその手を払ってしまい、乾いた音が響く。


「す、すまない」


怯んだ気配にギクッとして、自分を落ち着かせようと、強くかぶりを振った。
俺は劣情に任せて突っ走っただけで、彼女を労わる余裕は皆無だった。
しかし、俺を突き動かした激情が、そもそも的外れだったなら――。
……これ以上続けていいわけがない。


未だかつてないほど昂っていることを、俺は自覚している。
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