クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
凛花が初めてならなおさら、苦しめることになる。
せめて、この激情を完全に根絶やしにして、俺が最後まで余裕を保てる時。
彼女を労り、大事に気遣ってやれる状況で……。
――この結婚記念日は、最初から丸ごと仕切り直す必要がある。


俺は目を伏せ、身を捩ってベッドから下りた。
ベッドの端に浅く腰かけ、前髪を掻き上げて俯く。


「……けい、ごさ」

「これ以上は無理だ」


遠慮がちなたどたどしい呼びかけを振り切り、勢いをつけて立ち上がった。


「っ、え?」

「やめよう。部屋に戻る」


床に落ちたシャツを拾い上げ、腕を伸ばして袖を通した。
凛花は、なにも言わない。
どんな目で俺を見ているのだろう……振り返って確認したい欲求を鎮め、大股でドアに向かう。


その時、スラックスのポケットでスマホが振動した。
仕事用のスマホ。
電話の着信だ。
迷うことなく取り出し、相手を確認もせず応答する。


「……はい。瀬名です」


必死に冷静を装い抑えた声は、低く掠れた。
凛花の耳を憚るフリをして、顔を背ける。
細く開けたドアの隙間に身を滑らせ、彼女の部屋を出た。
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