クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
影響される
週が明けて月曜日。
私が、身の回りのものだけを詰め込んだボストンバッグを持って出勤すると、菜々子さんが目を見開いた。


「凛花ちゃん。どうしたの? その荷物」

「おはようございます、菜々子さん」

「あ、おはよう」


向かい側のデスクに荷物を置いて、椅子を引いて腰を下ろす私に、パチパチと瞬きをする。


「旅行? いや、休暇届出てなくない?」

「お仕事は休みません」

「じゃあ、その荷物……もしかして、家出?」


わざわざ腰を浮かせて、身を乗り出してきた。
私は首を振って否定してから、ボストンバッグを足元に移した。


パソコンを起動させながら、デスクの鍵を開ける。
怪訝そうな顔をして私の返事を待っている彼女を、見上げると。


「菜々子さん、やけ酒ってやったことあります?」

「え? ああ、うん」

「私、初めてやってみたんです。そうしたら、そりゃあもう手痛い失敗しちゃって」


言いながらクスクス笑う私に、菜々子さんが不思議そうに首を傾げる。


「菜々子さんは、失敗したことありますか?」

「……まあ」


私の質問に虚を衝かれたように、ストンと腰を戻す。
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